分散投資をするとリスクが減ってそれに伴ってリターンも減る
というのはよく知られています。
が!実は少し視点を変えてみると、リターンも増えるよね。
という話を書いていきたいと思います。
コイントスの具体例
さて、いきなりなんですが以下のシチュエーションを考えてみてください。
あなたは今100万円持っていて、以下の2種類のゲームのどちらかを選んでお金を増やそうと考えています。どちらを選びますか?
・ゲームA
:コイントスをして、表が出れば保有金額が1.02倍に、裏が出れば保有金額が0.99倍になる試行を100回繰り返す。
・ゲームB
:コイントスをして、表が出れば保有金額が1.2倍に、裏が出れば保有金額が0.84倍になる試行を100回繰り返す。
コイントスを1回だけやった場合、
ゲームAだと期待値的にはで、
ゲームBだとなので、
ゲームBの方がお得感があります。
そこで、表と裏が仮に50回でたケースで計算をやってみた結果が以下です。
ゲームA:
ゲームB:(小数点以下切り捨て)。
なんと、
1回あたりの期待リターンが小さいゲームAの方が最終的には大きなリターン
になりました。
このカラクリについて以下で確認していきたいと思います。
どういうことか
今回、鍵を握っている以下の式をまずは確認します。
ここで は幾何平均リターンで、は算術平均リターンでは分散です。
分散が小さい方が幾何平均でのリターン、つまり一定の期間における収益率が高くなるということです。
つまり、先ほどのコイントスの例だと、
算術平均リターン(1回あたりの期待リターン)はゲームBの方が高いんだけど、
分散もゲームBの方が大きくなっていて、
最終的な幾何平均リターンはゲームAの方が高くなっていたのです。
なんとも不思議な感じがしますが、なかなか興味深い事実です。
[証明]
時刻と対応するリターンががあるとします。
は実現値(確率変数ではない)と考えます。
(のうち50個がコイントスで裏が出た時のリターンで、
残りの50個が表が出た時のリターンという感じです)
この時の幾何平均リターン は以下のようになります。
となります。
ここで、
の2次までの近似(が小さい時ならこの近似も妥当)を用いると
ここでまた3次以降を無視することで、以下が得られます。
ここで、算術平均リターンが なので、
となり、一番初めに述べた数式が得られました。
金融市場では
では、先ほどの幾何平均リターンと算術平均リターンの近似式から、
金融市場における投資に関してどういったことが言えそうでしょうか?
例えば、ある1銘柄のリターン系列が、あるポートフォリオのリターン系列がで与えられているとします。
ここで、どちらも単位時間における平均リターンが同じ、
つまりだが、分散は1銘柄の方が大きい、
だとします。
すると、一定期間におけるリターンはポートフォリオの方が大きくなるということです。
一般的なCAPMだと静的な世界観なのでなかなか時間を通しての効果が見えてこないですが、分散投資してリスクを減らすとこのようなリターン効果があるみたいですね。
注意点...
実は今まで見てきた議論は最も生じやすいシナリオでの議論で、期待値的な意味では実はゲームBのほうがゲームAより良かったりします。
例えば、コイントス2回やったあとのゲームAの期待値は となります。
一方で、ゲームBの期待値は となり、
ゲームBの期待値>ゲームAの期待値となります。
同様に、回数を重ねればどんどんゲームBの方が期待値が高くなっていきます。
では、一番初めの事例を説明する上で、どこで最も生じやすいシナリオの議論にフォーカスを当てていたのでしょうか?
そして、どこで期待値の議論を見落としていたのでしょうか?
実はこれは、
大数の法則的に 「表と裏が仮に50回でたケースで計算をやってみた」
というところがポイントで、
コイントスの回数を増やせば増やすほど表と裏の出る回数はそれぞれ半々に収束していくわけですが、
それでも微小な確率で表が100回連続で出る確率も存在するわけで、
その時のテールイベント的なシナリオを考慮すればゲームBの方が儲かる!
という結論になります。
なお、証明のところでの議論は別に何もおかしいものはなく、
シナリオ(サンプルパス)ごとに近似式は成り立ちます。
例えば、全てのについてであれば、分散はとなり、となります。
以上の話をまとめると
最も生じやすいシナリオではゲームAの方が良いが、
期待値的には(全てのシナリオを考慮すると)ではゲームBの方が良い
というのが今回見て行った内容ということですかね。ただし
回数を重ねれば重ねるほど生じやすいシナリオに収束していく
ということを把握していなければなりません。
個人的には、期待値はほぼ実現しないので、
こういうケースでは最も生じやすいシナリオで勝つ戦略が良いと思います。
数学的には?その1
これは数学の言葉で
優収束定理が成り立たない や 収束先とa.s.収束先が一致しない や 一様可積分性が成立しない
と言うふうに理解できます。
回の試行における幾何平均リターンをとすると、
は特定の値(表裏が半々出るときの値)にa.s.収束するのだけれども、
(は上昇時のリターン(定数)、は下落時のリターン(定数)、はコイントスにおける表が出る回数の確率変数)
期待値であるはには収束しないと言うことですね。
まとめ
1回あたりの期待値(算術平均)が高いからと言って、累積での期待値(幾何平均)も高くなるとは限らない.
一定の仮定のもとで が成立.
今回の関連書籍
今回の最適成長戦略の話が載ってる本です。関連する話題も載ってた気がします。
最後らへんの確率論の話題部分の本です。数学科の後半とか院生の人がやってるやつです。