トレンド定常過程と単位根過程というのは、
ともに線形なトレンドを有する確率過程ですが、
特に予測の観点では、分散が増大していくかどうかが大きく異なっており、
どちらの過程なのかの判断はとても大切です。
今回はその定義、正確ですか?ってお話
トレンド定常過程と単位根過程(沖本『計量時系列分析』による定義)
トレンド定常過程とは、
定常過程を用いて、と表される過程
とあります。
イメージとして、Rでささっと描いてみますと、、、
trend.stationary <- ts(rnorm(500) + c(1:500)/50) plot(trend.stationary)
こんな感じです。
中学校とかで習ったCO2濃度とかこんな感じだった気がします。
他方、単位根過程はというと、
原系列が非定常過程であり、差分系列が定常過程であるとき、過程は単位根過程(unit root process)であるという。
とあります。
またしてもイメージをRでプロットしますと、、、
random.walk <- ts(cumsum(rnorm(500)) + c(1:500)/50) plot(random.walk)
こんな感じです。
トレンドがあるランダムウォークなんで、乱数のseedが違えば毎回結構ブレます。
でここで気付くわけです。
あれっ。トレンド定常過程って単位根過程の定義満たしてるんじゃね
これが今回の主題です。
トレンド定常過程は期待値が時間とともに変化するので定常過程ではありませんし、
定常過程と定常過程の差分はまた定常過程なので単位根過程の定義を満たしてしまいます。
一般的なイメージとしてトレンド定常過程と単位根過程って全然違う過程という認識の中で、
このようなわけわからん現象にぶつかってしまいました。
トレンド定常過程と単位根過程の定義をつよつよ本(ハミルトン『時系列解析』)から引っ張り出す
そうですね、困った時は強そうな本に頼るのが一番です。
するとそこでは、トレンド定常過程の定義は以下のようになっていました。
定数のを除くと、基本的に沖本本と同じ定義です。
(分解定理に基づけば、任意の定常過程は線形過程と決定論的な定常過程の和で表すことができるため)
では単位根過程はというと
となっています。階差が定常という点は沖本本と同じですが、
制約条件部分が異なります。
実際、トレンド定常過程の階差を取ると
ただしとなり、
ハミルトンの定義だと、トレンド定常過程は単位根過程にはなりません。
おそらくハミルトンの定義が正しいものと思いますが、なんか本によって定義が違っているのって不安ですよね。そこで
沖本先生に直接聞いてみました
すると
正確にはハミルトンの単位根過程の定義が厳密ですが、私の定義は、それを可能な限り、わかりやすい形で言い換えたものになります。
より厳密には、原系列が非定常過程という条件ではなく、ハミルトンと同様に、差分取った系列の長期分散が0でないという条件を課せば良いのですが、その定義は本のレベルを超えてしまいます。
その結果、私の本の中だけで考えると、トレンド定常過程が、単位根過程になってしまう可能性は否定できないような気がします。
ただ、本では触れておりませんが、確率過程の定常性、非定常性の議論をする場合、確定的に変化する部分は除いて議論を行うほうが自然で、通常、トレンド定常過程は、定常過程に分類されます。
ですから、実際には、私の定義でもトレンド定常過程は、単位根過程ではなく定常過程となります。
とのご回答いただきました。スッキリ
(長期分散、、あー中心極限定理が成立しなくなるとかいうあれね、、復習せな)
今回の関連書籍
時系列の有名な本です。ハミルトンから基本的なトピックを選んだ感じの構成です。
ハミルトンの日本語版(後半)です。